現実日記

Tの場合

「大切な人を囲う必要があると思うんです」 彼女はビールグラスをカウンターテーブルの端へ退かし、両の手で大切な者達を示した。 「つまりですね、ここからここまでが関わり合いを続けていたい範囲だとします」 シュッ、シュッ。テーブルへと振り落とされる…

18/12/2016

大切なものは無くして初めて気付くこともありますが、無くなった時に感謝の気持ちを込めて見送るだけの日もあります。 その対象が、人間では無いというだけで幸いです。 お疲れ様、僕のウサギちゃん

12/8/2016 ちびちびと。

素朴な疑問なのだけど、「カッコイイとは何?」なのか。 昔からちゃんと考えた事も無いし、言われる事もあまり無いから野放しにしていたけれど、ふと気になった。 数日前からいただき物のブランデーをちびちび飲み始めた。ウイスキーなら一日中でも飲めるけ…

10/8/2016 選択と後悔

先日、親しくしていたAがインドへ渡った。 彼女が仕事で其処へ向かう前に、僕は彼女に幾つかの話をして、最後は彼女が遠くへ行く事を僕自身も望んでいるという話をした。彼女の欲したものが微かに見えた気がしたから。インドである必要は今でもわからないけ…

2/4/2016

3匹とも、装飾音

23/3/2016 にゃん髑髏

大胆な構図や際立った着想よりも、どうして人に影を施さないのか、作中の人間が纏う着物の柄が大きな動きの中でも乱れないのか、絵が絵であるということ、一枚の薄っぺらい紙に描かれた平面の世界であることを純粋に認めた様子に心惹かれていたのであります…

Kの場合

「私ね、シャンパンの下から上がってくる泡を見ているのが好きなの」 泡付きの黄金色した液体がある日には、Kの言葉を思い出す。 あれから飲み物を口へ運ぶ女性の手を眺めるのが多くなった。 僕の内側では、今ここにある手は出てこない。 異常に細い指を従え…

5/3/2016 尺度

優しさを売りにして、人から同情を買うように仕向ける人より、冷たい人間の方を私は信用する。 ーMー

FIN

午前6時の渋谷は静かなもので、疲れきった亡霊のようなものがちらほら見える。 おかしいくらいに空が青い。 青い空気が僕を散歩に誘っている気がした。 渋谷から吉祥寺まで歩くことにする。 2時間くらいの距離だ。 井の頭線沿いで進むと時間が掛かるので、…

Oの場合

『グルゥ……俺はお前らが憎い。お前らの所為で俺はこうして沢山の人間を殺したんだ。今さらどうもできやしないのさ』 ドラゴンは僕にそう言った。大きな翼を持ち黒々とした硬い皮膚に覆われたドラゴン。瞳は真っ赤な色をしている。その眼は泣いている様にも見…

Aの場合

3階建てのカフェの喫煙席。 コーヒーカップにスプーンを当てて、無闇に音を鳴らしている男がいる。 僕のことだ。 その向かいで僕とスプーンを無視して、何かを喋っている女がAである。 Aがうるさいからやめろと言うので、とりあえずスプーンを手から離した…

Sの場合

「また崩れてしまったか。交互に呑むのはやめて、カードで決めよう」 「悔しいですね。これで間違いないと思ったのに。上手くいかないな」 「でも、脳みそを作るには良い夜だよ」 Sはサウザ・テキーラのショットグラスに脳みそを作ろうとしていた。 グラスに…

North

北の地でプリンスを聴くと言葉に出来ないので、とりあえず何もない世界をお届けします。

KAの場合

『ねぇ、LoBLoYさん』 KAが静かに僕の名前を口から溢した。 その声音は疑問符を添えていた。 「どうしました?」 『どうして人間だけが言葉を使うと思いますか』 「え?」 予想した疑問符とは色合いの違う質問だった。 ワイングラスを掴む指先の力も途絶えた…

16/11/2015 さようならは、26回

「あれかな」 『いや、到着の便ですね』 「そうか。あれは?」 『ロブロイさん、あれも到着便ですよ。もう30分も待っていますが、1機も飛んだのを見てません』 「もしかして離陸の滑走路ってここじゃないのかな」 仕事で30人あまりの中国の人達を見送る…

14/10/2015 幸運を誰にも

願い事を6つした。 2つは僕のこと。 4つは僕以外の人。 4つの中の2つは、誰かのこと。 あとの2つは、全ての人。 逆からでかまわない。 叶えば僕の1つはどうでも良く思えるから。

Lの場合

『Yが引っ越すから家が無くなる。仕事もちょうど無くなったし、暇だからカナダに行くよって話したのは夢だよね?妙にリアルで。LINEの履歴とか見ちゃったよ』 「端的に言うと、ほぼ当たりだな。Yに恋人が出来たから、僕は家を出る事にしたんだ。宿無し状態に…

27/9/2015 右腕女が復讐した

安定の遅刻時間30分と、曇空に昨夜の雨を従えて、彼女は復讐をする。 というわけで、彼女の復讐計画に従い(手記「骨董市に行こうじゃないか」より)2週に渡って骨董市、フリーマーケットと古びた良き物を求めて徘徊することになった。 やってきたのが、新…

23/9/2015 「骨董市に行こうじゃないか」

先日、友人に誘われて骨董市に出掛けた。勿論、業者が集う骨董市は避けたいので、フリーマーケットを求めた。彼女に確認すると「一般の人も居るらしいから大丈夫」と言うので、僕は珍しく遅刻もせず、雨女は青空を呼んだ。会場に着く。ショーケースが立ち並…

10/9/2015 そんな場所

「東京……一度は行ってみたいな」「そう?僕はそんなに好きじゃないけど」「どうして?危険ですか?」「そうだね。悪い人も沢山いるよ」「良い人もいるでしょう」「いっぱい人がいるから、悪い人よりも、良い人はいっぱいいる」「悪い人は、どう悪いんですか…

8/9/2015 父ちゃんはアライブ

父ちゃんが死んでしまった夢を観た。僕は2年前から東京に居る。先日、現住所を今の家へ移したばかりだった。実家宛に自然食品を扱う会社から、グロコサミンの案内が届いていた。「もうこの世にはいないのに……あ」勘違いだと、ちょっとして気が付く。父ちゃ…

7/9/2015 29

予定の時刻まで2時間はあった。 Cが到着するまでの間、街を散策して煙草も吸えないカフェでコーヒーを飲んだ。 仕事の待ち合わせ場所になったその駅に立ち寄ることは二度と無いだろうと感じたから、最後の蕎麦を食べて、最後の煙草を吸う。 するべきことが…

4/9/2015 好意の始まり

ホテルの朝食バイキングが口に合わなくて、食べ切るのに怖ろしい程の時間がかかった。 何とか食事を終えて、部屋へと向かう。 その途中の売店が賑やかだったので、足が止まる。団体客のお年寄りが犇めいていた。売店には百貨店の一画に見える程、大量の服が…

31/8/2015 向こうはずいぶん良い処

「ある時ね、まだ私が小さい時だけど母親に聞いたんだよ。あなたのばあちゃんにね。死んだらどうなるの?って。そしたらばあちゃんは『それはわからない。死んだ人は帰ってこないからね』って言うから、まあそうだなって思った。けどその後にね『でもみんな…

14/8/2015 10年後のクジラ

『久しぶり〜元気にしてた?あらっ、本当にお母さんに似てきたわね』とMが言った。 『な?ソックリだろ』とHが言う。 『これ、ロブロイか?全くわからねーな。いや…母ちゃんそっくりだな!』と眠たそうなDの目が開いた。 「わかったよ。似てきたかもね。みん…

3/8/2015 本気と冗談が6対4だと思ったけど、眼を見たら9対1でした。

『いやーそっちは会話が聞こえてくるといつも面白いなぁって思いながら聞いていたんですよー』と他部署のTさんに言われた。 「あははっ!本当ですか?面白いのはこのお姉さんだけですよ」と僕は言った。 「おい!」と、ちゃんとお姉さんが怒った。 『あはは…

1/8/2015 知らぬ間にナナメにいってた

「ねえ……」「んー?」「外で食事をするって言ったわよね?ちゃんと着替えてから来なさいよ!」「ごめんよ。この寝間着、大好きだからさ」って言ったけど、本当はかなりお洒落さんだな!と思う格好をしたから泣きそうでした。

28/7/2015 その足で、体はどこへ向かうのか

すごく楽しみにしていたジブリ美術館の予約が取れなかったので、僕達は映画を観た。その足でビアガーデンへと向かう。馴染みのないカクテルの名前を呼びながら、香草が山積みの白い円をテーブルに並べた。極め付きはそこに添えられた話の数々なのだが、これ…

25/7/2015 続いたままの夏を終わらせよう

「忘れてた……花火」 「は?」 「花火大会!!館山の花火大会行かなきゃ夏が終われない!!」 「あれ?去年、花火大会なんて行ってた?」 「あ、行ってない」 「あんた、去年の夏がまだ終わってないわね」 「そう!僕の夏は去年から終わってない!」 というわ…

20/7/2015 ふわふわスメル

「あぁー、このタオルケット……やっぱロブロイの匂いだわ」 「気持ち悪いな。何だよ。僕の匂いって」 「ロブロイの匂いよ」 「んー……わかんない。どんな?」 「あーロブロイだって匂い。あんたって、何かフワフワした匂いするのよ」 全くわかりませんでした。