Hの場合(着たらいい)

「このスプリングコート、僕にぴったしなんだけど、腕だけ合わないんだ」
 
僕は父の前でコートを羽織りながら言った。父は数秒程、何も言わず僕を眺めていた。
 
「それは俺のじゃない。お前の母さんのだ。あいつには少しでかかったからな。着たらいい」と父が言った。
 
「そっか。母さんのか。この腕、どうにかならないかな。叔母さんに聞いてみるよ」
 
父親の8箇所に及ぶ巨大な箪笥やクローゼットから僕は母のスプリングコートを見つけた。
 
それよりも「そんなことまで覚えているのか」と、ほんの少し父を見直したところです。
 
 
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