6/2/2015 脳内映画館

 
滑走路に向かう機体の中、飛行機の座席に腰を下ろした僕は、ふと思い付いた。
 
「ねぇ、何で上見てるの?てか、何でニヤついてるの?」とYが僕に言った。
 
『いや、しばらく暇だろ?どうやって時間潰そうかなって、思い付いたから試してみようかと』僕は上を見上げながら答えた。
 
「……何を?」
 
『脳内映画館』
 
「は?」
 
『暇だからスポンジ・ボブの好きな話を思い出して、頭ん中で完璧に再現してみようかなって。8話くらい(頭の中で)観たら着くだろう?』
 
旅行先へ向かう飛行機の中で、恋人に話したのを思い出した。
 
あの冷ややかな目。その日は、上映禁止に追い込まれた。あの目は、笑えなかった。
 
それは「懐かしい想い出」というところに収まった記憶なのだけど、冬になると思い出す。
 
理由はわからない。
 
もう何も気にしなくていいわけだしね。
 
今では、劇場に僕の席がいつだってあるし、その入場を拒むものもない。
 
いつでも、好きな時に好きな映画を上映できる。
 
どんな作品でもかまわない。
 
「だから、今は幸せです」とは残念なことにならなかったよ、というだけの話。
 
僕は冬になると気にしなくていいことを、気にしたがるのかもしれないと考え始めている。
 
ところで、口に出した作品が、純粋に映画ならどうだったのだろうか。
 
「君が好きなヴィム・ヴェンダースの作品なんだったかな。人間に堕ちたばかりの天使の話。大丈夫?僕の声も聞こえてる?」とか
 
「隣で泣いていても止めないでくれ。君の次に彼女が好きだ。ボルベールのペネロペ・クルスは君だって大好きだろう?」
 
とか適当に馬鹿なこと言った後に、真剣にスポンジ・ボブを脳内再生すれば良かったのか?と新宿駅のJR線と京王線の連絡通路内で考えてしまう。
 
全部、冬のせいかな。
 
愛する人が傍に居ながら「暇だから」という軽率な言葉を口にした僕が悪かったのか、それとも、心弾ませ選んだ作品が、スポンジ・ボブだったことに本気でがっかりしたのか、今となっては、実に興味深い謎である。
 
 
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