17/9/2015 僕には、あの時の

 
「私は帰ってこないよ、ジョバンニ。今日はナポリの試合があるの」
 
マウラが僕にそう告げた夜に、ローマではフーリガンによる警察沙汰の凱旋が行われていた。
直ぐ近くのトラットリアで唄うダリを窓辺から見た夜の深くで、赤い光と歌声が地鳴りの様に遠くから迫っていた。
それを確かめて、窓をしっかりと閉め直し、僕は2度目の眠りについた。
 
マウラがドミトリーに戻ったのは翌日の深夜、または翌々日の始まりだった。
彼女は一仕事終えた後の顔付きで、ゆっくりと6つあるベッドの一つに体を沈めた。
仕上げにアルコールを求めた彼女の魂が、フレーバーウォッカとピーチリキュールを交互に内臓に落としていった。
ゆっくりと規則的にマウラは眠りにつく。
サッカーを観るのには、僕の関心と集中力は足りなかった。
それがオペラなら話は違うけれど。
 
マウラは翌る日にも、何処かへ向かった。
彼女の仕事が何なのか、僕には分からない。
ドミトリーに永く住まう彼女が、どこでお金を手にしているのかも知らない。
でも、彼女はそこで生きていた。
サッカーを愛するがゆえにスタジアムで観戦し、ドミトリーでその日暮らしの生活を重ね続けている。
 
まだ結婚をしていた頃の話をマウラから訊いた時「子供を授かれば、ここには居なかったはずだ」と寂しそうに彼女は言った。
いつの頃かは分からないけれど、人生の岐路が彼女にも有った。その選択によっては、サッカーの試合をローマで観戦する今の姿は無かったかもしれない。ナポリの片田舎でゆっくりと海を眺めて笑うマウラを思い描いた。
 
そんなこんなで、唐突に人生の岐路が目の前に姿を現した僕の2015年9月17日も、そろそろ終わりかけている。
 
 
 
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