LobLoy’s diary

現実日記・妄想日記・夢日記

ガーネットと常夜灯

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「秋の四辺形から左に向かって進んでいきます。天の川の帯が二手に分かれているのがわかりますか?この辺りの白い靄をこれから一緒に見てみましょう。まずは220倍の望遠鏡で。」

 


「おお!すごい。プラネタリウムなんて必要ないですね」

 


「いつもこうではないんですよ。今日は本当に良い日なんです。月の光も無いから、天の川もハッキリと見えてます。」

 


「そうなんですか。僕の家から空を眺めても星が4つと電信塔の小さな灯くらいなんです。もし普段がこの半分でも、こんな空が続くなら素敵です。」

 


「あら!随分と都会からお越しになったんですね。今日は説明しがいがあります!ようこそおいでくださいました。」

 


「こちらこそ、ありがとうございます。勉強になります。僕は星と光線には疎いので。」

 


僕は天体観測をしている。

 


この小さな町には、何も無い。17時になると夜が訪れ、それと同時に1日の終わりが連れ添う。夕食を小さな宿で済ませたら、今日が終わってしまった事を認め、21時にはベッドの上に居る。

 


東京なら21時に何処かの扉を開け、夜の灯と戯れるのだけど、ここにそんな場所は無い。

 


この町の夜にあるのは、山の上にある天文台だけだ。季節によって変化する失われた星を探して、ただ空を見つめて、超高倍率の天体望遠鏡で星の終わりを楽しむ。みんな、この天文台に夜の余った時間を置きにくる。

 


「ん?あの星、赤いですね」

 


「え!すごいですね!肉眼で分かるんですね。そうなんですよ。あの星は赤く輝いています。その強い光から、ガーネットと呼ばれているんですよ」

 


僕が天体望遠鏡でガーネットという星を眺めたのは、天体観測を始めて1時間が過ぎた頃だ。その日、僕は数え切れない程の星や星雲を眺めた。ガーネットの前にも赤い光はいくつか見たけれど、あの赤い輝きだけは見飽きない。

その赤い灯は、何かを思い出させてくれる気がした。その理由は分からない。いつの頃の話か、どんな場所の記憶かも。誰かの事なのかもしれない。

 


しばらくの間、僕は望遠鏡に右目を当て続けた。冷たい空気を胸にしまい込む度に、解りかけそうな何かが消えてしまう。裸の左手は冷たくなって、感覚が無くなった。赤い灯は炎の様だ。燃える星を眺めていると、煙草が吸いたくなった。

 

しばらくガーネットを眺めてから、ちょっとだけ気付いたことがある。僕はいつも何処かに大切な時間を置いてきたんだということ。そして、なぜかAは赤が好きだったのを思い出した。彼女とガーネットは何の繋がりも無いのに、今はAの顔しか浮かばない。左手を温めなくちゃいけないなと思った。もう町に戻ろう。高台から町を見下ろすと赤い常夜灯の群がいる。僕はガーネットと常夜灯の違いが何なのか、きっとAに上手く説明が出来ない。でも宿に戻ったら、彼女に電話をかけようと思った。こんな時に気付くことは、きっと大切なことだったりするから。