15/12/2018

 

「その首、痒くないの?」と彼女が僕に言ったのは歩き続けて長い時間を失ってからだった。

「確かにずっと痒くてね。さっきから耳の付け根が赤くなってる気がするよ」

「そりゃそうでしょうね。そんなに大きな蜘蛛を肩にのせているんだから」

右肩を見ると、釣竿の様に長い脚が触れている。
僕はそれが蜘蛛の足だなんて認めたくなかった。彼女は気にせずに歩き続ける。僕はずっと首元を掻いている。首元は次第に赤みを帯びて、痛みが酷くなっていく。火傷の痕の様に肌が膨らむ。ツルハシの様に銀色に輝く足が肩に触れたり離れたりするのを繰り返している。

しばらくの間、僕は首元を掻きむしる。
嫌気がさして蜘蛛の顔を見ようと決めたのは、彼女が話している事に集中出来なかったからだ。

振り返ると大きな瞳と蜂の様な牙をした真っ赤な生き物が寄り添っている。大きな気球の様な腹が脈打っている。それは息をしていて、そして、きっと生きてる。

「面白くないことがある。どうして君は平然としてるんだよ。こんなのがいるのに」

僕は彼女に苛立ちを覚える。肩には大きな赤い生き物がいて、僕を連れ去ってしまいそうなのに、自販機を眺めている時と同じ目を僕に向けるから。

彼女はこれから歩く先を見つめ直す。
そして、もう僕を見ようとしない。

僕は初めて、彼女が見ている方を眺めた。
砂漠だ。風が吹かないから、時間が過ぎているのか疑ってしまう。夜が朝を迎えようとする。僕は空が白くなるのを見て、時が欠けるのを信用する。そして、僕は砂漠でスカートを履いている彼女を不思議に思う。

「気になるの?」

彼女の背中から声が漏れる。

「なるよ、どちらにせよ。」

「あなた、好きじゃない。変なの」

 

 

 

 

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