現実日記

本当は、きっと待ち侘びて

東京駅で、友人と待合せをした。 身支度に時間を要して、少し遅れるそうだ。 この後、電車が遅延しなければ良いけれど。 そういえば、僕は人を待つ時間がけっこう好きだったりする。 何をして待とうかと想い巡らせて、まずは珈琲や煙草と相談する。 「手記を…

レーズン・ラム

人は唐突に熱が出た場合、薬を飲んで楽になると、まだまだ今日はいけるなと思って、クイックルワイパーを乾拭きとワックス両方やってしまう事がある。 しかし、問題は綺麗になった床の上で寝そべって、冷たくて気持ち良いなぁとか言って、漫画を読んでる合間…

え、何で?ステーキじゃん

綾香と美味しいお肉のお店へ来た。 ステーキも、ハンバーグも、 とても美味しそうだ。 「なあなあ、綾香!」と僕は彼女に叫んだ。 聞いて欲しいことが、あるのだ。 「何?」と綾香がメニューを眺めたまま、返事をした。 「ハンバーグがビーフ100%なんだっ…

宝物の話

箱の中が、キラキラしていると思った。 ずっと幼い時の話だ。 僕が、箱の中を不思議そうに見ていたら「どうしたの?」と母は聞いた。 キラキラしたものがある、と僕が言った。 母は、1つ1つ説明してくれた。 「赤いのはルビー、青いのはサファイヤ、緑色は…

可愛いだけじゃ、許されない

「ねえ……」と言って、綾香は僕をじろじろ見ている。なぜか不機嫌そうだ。 「ん?何?」と僕は言う。 「外で食事をするって言ったわよね?ちゃんと着替えてから来なさいよ!」と彼女が言う。やっぱり、怒っている。 「え、ごめんよ。この寝巻大好きだったから…

小高君の場合

1 『グルゥ……俺はお前らが憎い。お前らの所為で俺はこうして沢山の人間を殺したんだ。今さらどうもできやしないのさ』 ドラゴンは僕にそう言った。大きな翼を持ち黒々とした硬い皮膚に覆われたドラゴン。瞳は真っ赤な色をしている。その眼は泣いている様にも…

綾香の場合

3階建てのカフェの喫煙席。 コーヒーカップにスプーンを当てて、無闇に音を鳴らしている男がいる。僕のことだ。 その向かいで僕とスプーンを無視して、何かを喋っている女が綾香である。 彼女がうるさいからやめろと言うので、とりあえずスプーンを手から離…

サルトルを飾る

僕には本が好きな友人と、本がそんな好きじゃない友人がいる。本が好きじゃなくても、大してかまうことじゃない。でも、今日は本が好きな人間の話。 どんな本が好きなのかは人それぞれで、僕と会う度に哲学書の話をする者や、探している画集や写真集を僕に知…

二日酔いライダーも、旅がしたい

「んーバイクの免許でも、とるかな」 というわけで、何となく自動車教習所へ通う事にしました。 10月中旬から開始し、第1段階が修了。今日から第2段階が始まる。 そして、僕は……マジ吐きそう。二日酔いで。 第1段階の教習も、半分は二日酔いで受けてい…

ゾーイとズーイ

本を片手に、風呂の中でプカプカと浮いているのが好きだ。 生温く、冷めた湯槽でも構わない。 水中にいるだけで安心感が芽生える。 その度に犠牲になる本は、新潮文庫が筆頭で、カミュとサリンジャーには申し訳なく思ったりもする。 久々に風呂で『フラニー…

旦那の場合

「酷い病院に居たんだ。彼処から逃げ出せたのは俺ともう1人だけだった。今から会う奴がそいつなんだよ」と、旦那は僕に言った。 隣に居た彼は、煙草に火をつけた。顔を正面へ向けたまま、僕には目も合わせず話し始めた。彼は空を見ているようで、見ていない…

恵の場合

『ねぇ、ロブさん』 恵が、静かに僕の名前を口から溢した。 その声音は疑問符を添えていた。 「どうしました?」 『どうして人間だけが言葉を使うと思いますか』 「え?」 予想した疑問符とは色合いの違う質問だった。 ワイングラスを掴む指先の力も途絶えた…

照信の場合

「見てくれよ」と照信が声を漏らした。 彼は右手の指を僕へ突き出す。 爪が万年筆の先っぽの様に尖っていた。 「何があった?」と僕は聞く。「もう麻衣子は無理だよ。恋が終わった」と彼は言った。 でも、彼の恋は始まっていなかった。ただの想いでしかなか…

真紀の場合

「愛する人がいて、愛される人がいて、どちらかと言えば貴方は後者ですよ。貴方が誰かを愛していると言っても、きっと相手は貴方よりも自分の方が愛しているのだと感じているはずです。 自分の方が愛していると考える人は、それをずっと絶やさず示し続けなく…

知らないくらいで、ちょうどいい

「やっぱりさ、あなたは呑めない女じゃダメなの?」 綾香の眼がしっかりと座っているので、完全に酔っ払ったのが分かる。 「いや、僕は相手がお酒呑めなくても良いよ。でも、君は?男は自分と同じくらい呑めないと気が済まないんだろ?」 「ははっ、わたしは…

奈美子の場合

高校生の頃、僕は一人暮らしだった。けれど、あまり一人で家に居た記憶はない。家にはよく奈美子が居た。彼女がどうして僕の家に居続けるのか分からなかったけれど、彼女はいつも料理をしていた。2人分だったり、僕だけの分を作っていた。 彼女の青写真はそ…

テレパシー

『幸恵が引っ越すから家が無くなる。仕事もちょうど無くなったし、暇だからカナダに行くよ、って貴方が私に話したのは夢だよね?妙にリアルで。LINEの履歴とか見ちゃったよ』 「それ、ほぼ当たりだね。彼女に恋人が出来たから、僕は家を出る事にしたんだ。宿…

貴子の場合

「大切な人を囲う必要があると思うんです」 彼女はビールグラスをカウンターテーブルの端へ退かし、両の手で大切な者達を示した。 「つまりですね、ここからここまでが関わり合いを続けていたい範囲だとします」 シュッ、シュッ。テーブルへと振り落とされる…

FIN

午前6時の渋谷は静かなもので、疲れきった亡霊のようなものがちらほら見える。 おかしいくらいに空が青い。 青い空気が僕を散歩に誘っている気がした。 渋谷から吉祥寺まで歩くことにする。 2時間くらいの距離だ。 井の頭線沿いで進むと時間が掛かるので、…