宝物の話
箱の中が、キラキラしていると思った。
ずっと幼い時の話だ。
僕が、箱の中を不思議そうに見ていたら「どうしたの?」と母は聞いた。
キラキラしたものがある、と僕が言った。
母は、1つ1つ説明してくれた。
「赤いのはルビー、青いのはサファイヤ、緑色はエメラルド、黄色のがトパーズ。キラキラしているだけなのがダイヤモンド。石なのよ」
それから、母が石の図鑑を買ってくれた。
ブラックオニキスや、ターコイズの様に、キラキラしていない石がある事を知る。
石を削ると、キラキラするのも理解した。
僕は家の側にある砂利道で、丸い石を集めては母に渡した。
母が石を好いていたのかは分からない。
きっとそうすることで、母が喜ぶのだと、子供ながらに感じたのだと思う。
いつも笑いながら、母は石を受け取った。
母の誕生石はダイヤモンドだ。
でも、ダイヤモンドのアクセサリーは箱にしまったままだった。
好んで身に付けていたのは、アメジストや、ムーンストーンのアクセサリーだった。
アメジストは僕の誕生石だ。
ムーンストーンは月から取ってきた石だと、勘違いした僕を面白がって、母が買ったものだ。
どちらも大して高価な石ではないけれど、母はダイヤモンドの代わりに、その2つを好んで身に付けた。
母が亡くなったのは、僕が15の歳だ。
残された宝石箱の中には、まだムーンストーンがあった。
それを見て、不思議な感覚が芽生える。
でも、あの時にはそれが何なのか、僕は受けとめられずにいた。
そんな1つの愛を振り返りながら、僕は今日を迎える。
「でもさ、あまり悲しくはないんだよ。僕は短い間に十分すぎる愛情を貰ったから」
母の事を話す機会に、僕はいつも人にそう話している。
そのお返しはできなかったけれど、僕が本当にそう思っていると、母にも聞こえるように。
僕は笑って、母親の話をすることが多い。
賑やかで、前を向いてばかりな人だった。
悲しくなるより、それはずっといい。