可愛いだけじゃ、許されない

「ねえ……」と言って、綾香は僕をじろじろ見ている。なぜか不機嫌そうだ。

「ん?何?」と僕は言う。

「外で食事をするって言ったわよね?ちゃんと着替えてから来なさいよ!」と彼女が言う。やっぱり、怒っている。

「え、ごめんよ。この寝巻大好きだったからさ……ってなるかよ!これ、お気に入りのTシャツなんだぞ。かわいいじゃん」と僕は反論した。

「どっからどう見ても、それ寝巻だわ。なんでシャツ着てこないのよ。あんた、いつもシャツじゃない」

「だって、格好は何でもいいって綾香が言ったんじゃないか。行くの居酒屋さんじゃないの?カジュアルな方が…」

「居酒屋でも、いつもみたいにしなさい!」

と言って、彼女は怒りっぱなしだったけど、15分でお説教は終わった。お酒を飲んだら、Tシャツが目に入らなくなったみたいだ。

それにしても、僕はTシャツの趣味が極めて悪いらしい。

以前勤めていた職場が、西麻布だった時のことだ。

「ねぇ、そのTシャツで電車乗ってきてないわよね?」と事務のお姉さんに聞かれた。

え?これで来たよって言ったら「今日でそれ、最後ね」って午前9時で最終回にされたことがある。

そして、その時のTシャツが彼女の目の前にあるわけだ。

はぁ、もうコレ、寝巻にするか。

かわいいのに。

 

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