本当は、きっと待ち侘びて

東京駅で、友人と待合せをした。
 
身支度に時間を要して、少し遅れるそうだ。
 
この後、電車が遅延しなければ良いけれど。
 
そういえば、僕は人を待つ時間がけっこう好きだったりする。
 
何をして待とうかと想い巡らせて、まずは珈琲や煙草と相談する。
 
「手記を綴っても良いだろうし、読みかけの小説に手を伸ばすのも悪くないかな」と、喫茶店のテーブルに置いた眼鏡や、壁に飾られた絵画とも相談する。
 
でも、待ち人が来るまでの合間、僕は彼女を思い返しながら、珈琲を飲むことが多い。

ずっと前のことだけど、デートの待ち合わせをして、約束の4時間後に会った恋人がいる。
 
遅れた理由は「洗濯機を回していたから」だった。
 
その時の僕は笑う。
 
想像していない理由だった。
 
でも、病気や怪我より、ずっといい。
 
約束の場所へ遅れて到着した彼女は、あまり申し訳なさそうにしなかった。
 
そこが彼女らしくて良いところだった、と僕は思っているけれど。
 
彼女は洗濯物を無事に干せて、着る服には困らなくなった。
 
僕は読みかけの小説が読み進んで、何枚かのCDを買い、ライナーノーツを隅々まで読む事ができた。
 
そして、僕にとって4時間くらいなら、人を待つ事は何の苦にもならないのだと知った。
 
その時の僕は、1人でランチを済ませた。
 
ディナーは2人で。特に変わった話ではない。
 
本来、その日に起こるべき予定の数々は無くなった。
 
けれど、彼女と出会うに至る1人っきりの4時間の中で、僕の効用はもう満ちていた。
 
あの時「楽しみにしていたのに。せっかくのデートが台無しじゃないか」と、約束の4時間後に顔を出した恋人へ文句の1つでも言ってたら、少しは僕のことを信頼してくれたのかな、と思ったりもする。
 
顔と顔を突き合わせて、僕はその日に2人で居ることが当り前なのだから、そのように過ごした。
 
だからって話でもない。きっとそうじゃないんだろうな。
 
僕は、彼女のことを好いていた。
 
それが、どの程度のものだったのか、今ではやっとわかるくらいに。
 
僕らの中で変わった事と言えば、きっとそれくらいだ。
 
 
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